オープンリーグ交流会2016後記
交流会実行委員長:降屋 守(MKエフシー代表)
7月17日に千葉ポートアリーナで開催されたオープンリーグ交流会2016の企画段階で、今回はコミュニケーションをテーマにしてフットサルをプレイするだけではないイベントにしたいと提案した際に、一部から疑問符付きの声があがりました。というのも、交流会を主宰する千葉『共に暮らす』フットボール協会(以下トモフト)が活動領域とする精神障害やひきこもり等の精神保健福祉の世界ではコミュニケーションを課題とする当事者が少なからず存在していることもあり、当事者のための支援施設の多くはコミュニケーションスキル向上を目的としたプログラムが組み込まれています。そこには、コミュニケーションは積極的に行われるべきもので、よってそのスキルは向上していくべきという確固たる考えが存在し、その世界に身を置く一部の方々はコミュニケーションという言葉に内包されたある種の支援っぽさや堅苦しい匂いを感じたのかもしれません。ただでさえフットサルで心身疲れた参加者に対して苦手な方も多いコミュニケーションを押し付けられて楽しめないのでは?主催側の理念だけが先行して実際の参加者が置いてきぼりというよくあるパターンなのでは…?
とても大切な声だと思います。だからこそ、オープンリーグの準備にあたってはミーティングにミーティングを重ねて、実際に当事者の声を聴き(というよりトモフトは多くが当事者および当事者経験のある方たちですので)、内容を練っていきました。そんな話し合いの中で浮かび上がってきたのは、目的はあくまで様々な人とフットサルを楽しむことでコミュニケーションはあくまでフットサルをより楽しむ為のツールとして捉えていくという方向性でした。いわばコミュニケーションが目的化しないこと。
交流会の具体的な流れとしては、まずは集まった参加者がくじによる当日限りのミックスチームを結成してメンバー同士の自己紹介後にファーストミーティングでチーム名とリーダー、チーム目標を決定、その後のゲームとミーティングを通じてチームづくりを図っていくといったグループワーク形式で進み、それをチーム毎に付いたファシリテーターがサポートしていきます。ゲーム部分の時間配分が多いとはいえ、慣れていない方も多いコミュニケーション要素の強いグループワークに戸惑ったり楽しめない参加者もいるかもしれませんが、ワークによってメンバーみんなで作ったチームという成果物によってフットサルの新たな楽しみ方を感じてもらえればいいなという想いが込められています。
これら一連のフットサルを通じたコミュニケーションワーク全体のネーミングをどうするか。ボク自身コミュニケーションという単語に込められた正論が故の押しつけがましさは感じていたので当初はなにか別の言葉に言い換えられないかとも考えていたのですが、ミーティングを重ねるうちにそういった部分も飲み込んだうえで再考する意味も含めて真正面から取り組んでみたいなと考え直すようになりました。ですのでネーミングはそのものずばり『コミュニケーションフットサル』で決まり。
交流会当日は、参加者や運営スタッフ含めて首都圏を中心に100名を超える方が千葉ポートアリーナに集まりました。『障害の有無に関わらず共にフットサルを楽しめる方ならどなたでも参加自由』という幅の広い参加資格ということもあって、当事者や福祉関係者だけではないバラエティ豊かな参加者が来てくださったのは普段トモフトが主催する精神障がい関連イベントと少し違う風景です。その中でも特に目立ったのが千葉高校サッカー部の一年生グループでした。総勢19名の彼らのグループはとても賑やかで、そしてチームごとに1~2名に割り振られると、どこでも最年少ということもあってちょっと緊張していた面持ちで……そんな今どきの高校生的振る舞いの彼らは、ゲームが始まるとそこはさすがの現役サッカー部、どのチームでも中心メンバーとして大活躍でした。チームの中には若い彼らの存在がチームコミュニケーションの潤滑油になったところもあったそうです。(ようは一回りも二回りも年上のお兄様たちのいじられ役になっていたとか。お疲れ様です…)交流会後に頂いた彼らの感想コメントでは、精神障害のある方とフットサルをすることの不安、そして一緒にプレイしてみると背景は関係なく楽しむことができる素直な気持ちが綴られていました。たとえそこにどんな背景があろうとも、コートに立てば皆がいちプレイヤーという事なんですよね。
どのチームも最初の自己紹介やミーティングこそぎこちなかったものの、そこはさすがフットサル好きの参加者たち、ゲームを通じて徐々に打ち解けていき、ゲーム合間の連携練習や中間ミーティングで積極的なチーム内コミュニケーションが交わされました。コート上に複数のミーティングの円陣ができるのはあまり見ない光景ですが、チームとしてのプレイをより良いものにするためにとても真剣に、時に笑い合いながらミーティングをしている姿は、当初おぼろげに抱いていたフットサルとコミュニケーションを掛け合わせたイメージが立ち現れたようで感無量。それもこれもフットサルの持っている可能性がゆえなんでしょうね。
今回、支援者当事者関係なくひとつのボールを追いかけて激しくぶつかり合う姿を目にして改めて感じたのは、精神障がい者フットボール全般において厳密な球技カテゴリーを設ける必要はあるのか?というひとつの問いかけでした。他障害と異なり競技そのもののハンディキャップの少ない精神障害領域のプレイヤーは一緒にプレイしていると当事者かどうかは曖昧になっていきます。競技志向ではなくエンジョイ目的の今回は唯一、初心者と女性には配慮したプレイを心がけるという部分を意識しました。いってしまえば配慮すべきは障害の有無ではなくプレイスキルということ。精神障がい者の為の大会の意義は強く感じる一方で、精神障がい者フットボールのもうひとつの方向性として、球技カテゴリーの確立ではなく、むしろカテゴリー自体を曖昧で流動的にしていくというやり方もあるのかもしれません。
全てのゲーム終了後、チーム目標の振り返りとチームキャッチフレーズを決める最後のミーティングの時、そこにはそれぞれのチームカラーを帯びたその日限りの10チームが存在していました。そんなそれぞれの個性が詰まった各チームの目標とキャッチフレーズがこちら。
- チーム名:スマイリーズ
目標:笑顔でチームプレイをする。
チームキャッチフレーズ:一笑懸命・完全燃笑
- チーム名:Menz Nuts
目標:それぞれがチームメンバー!全員にボールをパスする。全員ゴール!
チームキャッチフレーズ:全員でほっともっと!
- チーム名:すしーズ
目標:いいプレーで笑顔でホメる。(名前を覚える)
チームキャッチフレーズ:一体感
- チーム名:永遠の高校生
目標:得点を取ったらハイタッチで超よろこぶ。
チームキャッチフレーズ:All for 高校生!
- チーム名:ぐいぐい
目標:全員がボールにさわる。パス回す。ボールを呼び込む。
チームキャッチフレーズ:Heat and enjoy!
- チーム名:円助囲(エンジョイ)組
目標:まわりにエンジョイしてもらう。
チームキャッチフレーズ:熱中!
- チーム名:Love千葉イエロー
目標:一回はボールさわる。パスつなぐ、よびこむ。一試合で全員でる。
チームキャッチフレーズ:win next time!
- チーム名:イニエスチョ♡
目標:点を決めたら笑顔でハイタッチ!
チームキャッチフレーズ:不明(スペイン語のため記入者聞き取れず記録なし…)
- チーム名:ジョンユナイテッド千葉
目標:名前おぼえる。シュート決めたらハイタッチ。
チームキャッチフレーズ:draw by all
- チーム名:Peace nine
目標:思い出に残るような日にしよう。いいプレーは相手もほめる。ホメあう。
チームキャッチフレーズ:みんなで仲良く平和でナイスプレー
当日限りのこのチームは間違いなくメンバーそれぞれが共同作業で作り上げた世界にただ一つの成果物です。
コミュニケーションフットサルの締めに、一期一会のチームメンバー同士がこの日同じチームとしてプレイした記念として、そしてチーム最後の共同作業として「寄せ書きシート」の作成をおこないました。全員に配られたシートに自分の名前を記入後、円陣を組んだチームメンバー同士で1分間毎に回し合いながら各メンバーのシートに一言メッセージを書いて次に回していくと最後にチームメンバー全員が自分にあてたメッセージを集めた寄せ書きシートが手元にっ!当初、心身共に疲れ果てている状態で最後にチームメンバー分のメッセージを書くのは大変なのでは?という意見もありましたが、やってみると皆さん真剣な眼差しで今日一日一緒にフットサルをプレイしたチームメンバーへのメッセージを記入されていました。中には一分間では短いという意見も。わずか数時間前には他人同士だった参加者が共に話し合い、そしてフットサルを楽しむ事でここまでの関係性を築くことが出来るんですよね。
一つのエピソードを紹介します。『Love 千葉 イエロー』のファシリテーターを務めたKさんは精神障がい者フットサルチーム・ブルースカイの古参メンバーとしてコルツァカップ(千葉県の精神障がい者フットサル大会)に毎年出場していますが、今回、コルツァカップ優勝経験最多のエスパシオのゴレイロHさんと同じチームになりました。それこそ、大会では何度も対戦したことのある二人ですが、ちゃんと言葉を交わしたのはこの日が初めてだったそうです。交流会中、話しは自然と今までのコルツァカップの話しになり、その中で数年前にKさんが放った強烈なロングシュートをゴレイロHさんはいまだ覚えていたそうです。そんなゴレイロHさんがKさん宛ての寄せ書きシートに書いたメッセージは
「正面切って話せて良かったです。最高のチームメイトでした。でも、今度会うときは敵!?」
わずか数行の中にこの日の数時間分、いや、コルツァカップでライバルとして戦ってきた数年分の思いが込められた、とても素敵なメッセージだと思います。今回のオープンリーグではそういった出会いのエピソードが多数散らばっているのだと思います。
最後の集合写真のみんなの笑顔には、実践としてのソーシャルインクルージョン※の姿と、なにより今日一日をおもいっきり楽しんだプレイヤーとしての充実した表情が写りこんでいます。今回、交流会概要の目的にこそ運営上の事務的な諸々の理由で便宜上「ソーシャルインクルージョンの実現」を謳いましたが、参加者にはそういった理念はあえてお伝えせず、あくまでコミュニケーションを通じて楽しんでフットサルをプレイすることをお願いしました。そもそも保健福祉領域の専門用語を高校生たちは知らないですよね。まずは好きなことで集まって、楽しんで、そして気付けばその理念を自然に実践していた、そんな理念先行ではない形こそがソーシャルインクルージョンを広げていくのに必要なのかもしれません。
※「社会的包摂」。障がい者の方々が社会から隔離排除されるのではなく、社会の中で共に助け合って暮らしていこうという考え方。
オープンリーグ後日談。今回、本体運営の準備と並行する形で一部メンバーがクラウドファウンディングという資金調達システムを使って交流会を彩る備品や交流会での出会いを広げていくためのアフター食事会の費用を集めました。会での経験が思い出に変わりつつある二か月半後の10月1日に開催されたアフター食事会は、交流会参加者のみならず、その方のお誘いで来た新たな方など、交流会での繋がりをより広げる場になりました。脳性まひフットボール、聴覚障害フットサル、ホームレスフットサルなどなんらかのフットボール活動に関わっている方が多く、初対面同士でもフットボールの話しをきっかけにして盛り上がることができました。やっぱり『好きなこと』で繋がる関係性は強いですよね。食事会の終盤、トモフト佐々理事長の心の呟きのようなスピーチが良い締めとなりました。
「(様々な障害領域やカテゴリーの)いたるところにフットボールがある。不思議とどの場所でも、どの障害領域でもフットボールがそこにあるんですよね。それがフットボールなんですよね…。」
同感です。新しい人と交流するのは確かに緊張するし、それが、自分がよく知らない障害や背景を抱える方々だったとしたら、確かに戸惑いがあるかもしれません。出会いが常に良いことばかりとは限らないけれど、少なくとも好きなフットサル/フットボールを介した出会いならば既に一つの確かな繋がりがお互いにあるわけですから、輝いたものになる可能性が高くなるのかなと思っています。きっとそんな交流と出会いの延長線上にソーシャルインクルージョンの地平が広がっているように思います。・・・とはいってもそういった理念はいったん置いといて、まずは様々なプレイヤーとフットサルをプレイしてみませんか?トモフトは今後もそんな場をみんなで作れるオープンマインドな活動団体でありたいです。